「一人称単数」から始まった、村上春樹の新たな旅 — 「街とその不確かな壁」 — その3
『悪の消失』 その1の最後で述べたように『街とその不確かな壁』がこれまでの村上作品と比べて、決定的に違う点のひとつとして「悪の消失」が挙げられると思います。処女作『風の歌を聴け』から徐々に進化を遂げ、羊三部作最後の『羊を...
『悪の消失』 その1の最後で述べたように『街とその不確かな壁』がこれまでの村上作品と比べて、決定的に違う点のひとつとして「悪の消失」が挙げられると思います。処女作『風の歌を聴け』から徐々に進化を遂げ、羊三部作最後の『羊を...
『一人称への回帰』 短編集『一人称単数』で村上さんが確信的なのは、まず「一人称」という言葉をタイトルに用いたことです。彼の小説をある程度追いかけている方ならご存じだと思いますが、初期の一人称小説の時代を経て、「総合小説=...
『その街に行かなくてはならない。なにがあろうと』 上記の言葉は『街とその不確かな壁』特設サイトのキャッチコピーであり、単行本の帯にも大きく印刷されています。村上さんは小説を書いたら書きっぱなしではなく、装丁にもこだわりま...
『漫画というエンターテイメントで、宗教を描く』 その1では漫画における総合小説の一例として、「進撃の巨人」を挙げました。過去の評論の中で僕は「進撃の巨人」が出色なのは、高慢で有効性のない理想論を鼻で笑う、現実世界に根ざし...
『個人的には、歴代最高クラスの漫画です』 はぁ〜幸せ〜っ。現在発売されている「堕天作戦」全6巻を数時間で一気読みした後、至福のため息が漏れました。と同時に作者である山本章一さんに対して、あんたさ、何喰って、どう生きてれば...
『本作に流れる、2つのストーリー』 今作には表のストーリーに加え、もう一つの裏テーマがあり、それが作品に圧倒的な深みをもたらしていると個人的には思っています。それではまず表のテーマとは何か? それはこれまで述べてきた現代...
『なぜ彼らは満州里を目指すのか?』 ブーとリン、ジンに彼の孫娘の4人は揃って中国の北の果て、満州里を目指します。しかしなぜ、満州里なのでしょう? もちろんそこに一日中座っている象がいるからなのですが、我々日本人には理解で...
『映像で語る、ということ』 その1でも書いたように今作では言葉は通常の意味を持ちません。映像こそが重要で、そこにこそ作者の意図が大きく込められている。それは中国共産党の検閲に対する対策でもあり、結果としてそれらが表現の圧...
『緻密に計算尽くされた、巨匠の作品』 2018年11月の日本公開(これを書いているのは2022年8月です)で合計234分=3時間54分、すなわち約4時間の超大作『象は静かに座っている』は公開当初、映画好きの間で結構な話題...
『人は厄災に立ち向かってはならない』 本作の真の勝者は主人公の定助ではなく、東方家の母、花都(かあと)です。彼女はあえて先祖の「罪」を背負い、己の命を代償に「罪」を償うことで、家族の「祝福=呪いの解除」を得ました。まさに...