「呪い」の時代の「祝福」へ。ジョジョリオンとは何だったのか? ─  その3

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今作はこれまでの荒木さんの作品と比較すると矛盾点が多く、その理由としてその1でも書いたように3.11.発生わずか2ヶ月後にそれらの事象を盛り込んで、急遽連載をスタートしたという経緯が大きいと思われます。それでも可能な限りで、本作内の幾つかの謎を紐解いていきます。

★壁の目

当初は杜王町を津波から守るために、突然現れたかのような記述がありましたが、基本的には町全体ではなく、東方家の土地一帯を守るために隆起したというのが正しいです。町の名士で資産200億円を有する晴天ホールディングスのCEO、通称マコリンも東方家の土地は『特別』だと述べています。

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荒木飛呂彦(2019)「ジョジョリオン」第21巻 集英社

壁が守っているのは厳密には土地全体というより、「瞑想の松」の根元の祠を中心とする「等価交換」の聖域。これは1901年にジョニィ・ジョースターがアメリカ政府から盗んだ「聖なる遺体」を隠した場所であり、その時に遺体の力の一部がそこに宿りました。

遺体の力とはこの世に溢れる「光=祝福」と「影=厄災」の均衡するバランスの中、常に「光」だけを手にする能力として描かれました。遺体の力を行使するということは同時に代わりの誰かに一方的に厄災を振りまくことでもあり、それこそが本作の大きなテーマ=「等価交換」を意味しています。

けれど通常、人は「光=祝福」だけを得続けることなど出来はしません。光現れる時、必ず影も生じます。それでは「光=壁の目の土地」の代わりに東方家が得たもの、それは一族の長男に降りかかる「呪い」でした。

★東方家の「呪い」が象徴するもの

定助が身を寄せる東方家は不思議な一族です。

  1. 代々の跡取りは必ず「憲助(のりすけ)」を襲名する。現在は4代目。
  2. 長男が生まれると病気の魔物をだますために12歳まで女の子の格好で育てられる。
  3. 東方家の長男は代々10歳〜12歳の時、必ず病気になる。
  4. それは皮膚が石化する病であり、何もしなければ命を落とす。
  5. この病気は「呪い」であり、それを治すには「瞑想の松」の根元の「等価交換」の祠で何者かの命を引き換えに「禊ぎ」を行わなければならない。現在の家長、憲助の場合は彼の母が。長男、常敏の場合は彼の友達の男の子がそれぞれ身代わりとなった。

不敬な表現かもしれませんが、やはりこれはどう考えても「天皇=言い換えれば日本国全体」を象徴しているのだと思います。長男が跡取りとなるのは男系継承を旨とする天皇家も同様であり、これを万世一系(ばんせいいっけい)と言い、永久にひとつの血統が続くことを意味します

東方家の跡取りは代々「憲助」を襲名しますが、「憲」とは国のしくみの根本の原則を定めた掟であり、名前に使う場合、特別に天から認められた人という意味で使われます。

荒木飛呂彦(2014)「ジョジョリオン」第7巻 集英社

僕は右翼ではありませんが、日本は世界の中で神話に存在する神の血統が王として、その血を継いで現在にまで至っている唯一の国です。日本人である僕ら自身は気づいていませんが、実はこれはとんでもない力です。

なぜなら外国の人々は等しく天皇を「神の子孫」と認識し、頭を垂れるからです。外交上、「天皇との謁見」はリーサルウエポン(最終兵器)とでも言うべき破壊力を持っています(世界中の元首が天皇に謁見したがっている)が、この事実が日本国内で報じられることは殆どありません。

だからこそ戦争に勝利したアメリカはその「神性」を剥ぎ取ろうと、天皇に「人間宣言」なるものをさせ、さらに宮家と呼ばれる皇族の数を一気に減らしました。これは天皇になれる有資格者の数を減らすことで、男系継承が困難になり、ひいては後世において天皇制を自然消滅させるためです

東方家の長男の「呪い」とは太平洋戦争後、アメリカの行った天皇に対する一連の処遇や、軍隊という手足をもいで日米安保の名の下に、実効支配され続けている現在の日本の状態を現しているのではないでしょうか。

★父親の不在

今作の設定の中で特徴的なものとして「父親の不在」があります。主人公である定助の前身、空条仗世文はもちろん、ヒロインである広瀬康穂、吉良吉影など主要キャラクターは全て父がおらず、今作内で唯一の父的存在だった東方憲助に加え、常敏も最後は亡くなり、東方家は両親のいない、子供たちだけの家族となって再出発します。

この父性の不在は、あの第二次世界大戦の敗戦に端を発し、作者である荒木さんが属する世代以降ずっと続いている問題です。これに関しては「機動戦士ガンダムの評論」で詳しく書きましたので宜しければご覧ください。思えば頼れる父の不在や、そもそも親世代を信用することが出来ないというのはこの前に論じた「進撃の巨人」でもそうでした。

荒木飛呂彦(2021)「ジョジョリオン」第27巻 集英社

1960年生まれの荒木さんは世代で言えば「新人類」と呼ばれ、大学生になる頃には、学生運動はすっかり下火となり、政治的な熱が冷めた世代です。高度経済成長期に育ったため、戦時や戦後の苦しい時代も知りません。この60年代生まれの漫画家らが後に最大発行部数653万部というモンスター雑誌、週刊少年ジャンプの黄金期を築いていきます。

当時の少年ジャンプは娯楽の極みであり、徹底して現実社会からは乖離した、良くも悪くも「作りもの=フィクション」としての作品ばかりがもてはやされました。加えて読者による容赦のない投票システムで作家はすぐにふるい落とされていく。生き残る為にはとにかく「人気」のある作品を作り続けなければならなかった。

彼らがやっていたことは一般大衆に対しての現実世界からの逃避場所の提供です。荒木さんはその必要性は肯定しつつも一歩先のもっと「深み」のある作品世界を構築したかった。だからこそ青年誌であるウルトラジャンプへと発表の場を移し、「スティール・ボール・ラン」以降の別世界を構築したのでしょう。

今作で荒木さんが辿り着いた境地とは「父なき(頼れる者がいない)世界へ、子供たちだけで乗り出していく」というものでした。これは次作にも継承されるのではないでしょうか

★身元不明の幼児

1901年に杜王町に流れ着いた身元不明の幼児。綿製の灰色の帽子と靴下以外は裸で首に高価な宝石をかけていました。彼が何者なのかは全くの謎です。結局この伏線は放置され、回収されることがありませんでした。ここからは僕自身の勝手な憶測ですが、この子はイエス・キリストの生まれ変わりないし、聖人という設定で当初、荒木さんは書いていたと思います。

そもそもこの子はジョニィ・ジョースターが死に、彼が持ち出した聖人の遺体(イエス・キリスト)がアメリカ政府に回収されたと同時に入れ替わりで現れています。

荒木飛呂彦(2013)「ジョジョリオン」第5巻 集英社

まず彼が流れ着いた日時ですが広瀬康穂の読んでいた新聞によると11月13日とあります。13日はキリストの命日です。さらに帽子と靴下はサンタクロースの象徴であり、サンタクロースとはキリストを意味します。

結局、描かれることのなかったこの子の未来ですが、存在としては最終巻で現れるジョセフ・ジョースターへ引き継がれたのだと思っています。ちなみにジョセフとは聖書においてはヨセフであり、イエス・キリストの母マリアの夫、つまりイエスの義理の父です。ちなみにもう一人のヨセフがいます。これはイエスの弟子であり、刑死した彼の遺体を引き取り、墓に葬ったアリマタヤのヨセフです。

★ジョセフ・ジョスターとクラッカーヴォレイ

最終巻で突如現れたジョセフ・ジョースターですが、彼は第2部の主人公であり、第3部、4部でも重要キャラクターとして活躍したジョセフ・ジョースターと名前だけでなく、能力もまたリンクしています。ジョセフのスタンドはハーミットパープル(隠者の紫)、薔薇のような棘の付いたツルの形をしていました。これは以下の絵を見て貰えば分かるように全て同じです。

荒木飛呂彦(2021)「ジョジョリオン」第27巻 集英社

さらに見逃せないのが一瞬だけ出てくる、上記の画像右下にあるクラッカーヴォレイです。これは第2部の「戦闘潮流」でジョセフが武器として用いていた物です。なぜこれがここで出てくるのか? 彼はそれをラヂオ・ガガのガードレールの中から引っ張り出します。

荒木飛呂彦(2002)「ジョジョの奇妙な冒険」 
第5巻 集英社文庫

これは第9部「JOJOLANDS(仮)」への布石ではないでしょうか。あのガードレールの中は別世界、すなわちパラレルワールドへ繋がっているのではないか。次作では別世界へのリンクが重要な鍵になる気がします。 もしかしたら過去の1部から6部までのキャラクター達のまとめての再登場があるかもしれない。 そう考えると第6部「ストーンオーシャン」のラストで再構築された世界こそが、この第7部以降の世界だったのかもしれません。

「LANDS= 陸地、土地、国、国民」という言葉からも上記の連想は充分に可能だと思います。ただし、これらはあくまで僕の妄想です。その答え合わせは今後の楽しみに取っておきましょう。

その4へ続く

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